■とっておきのキミ(5)■

柔らかな感触が唇に触れる。
重なるたびに深くなるキスは、ワインの味がした。

酸素を求めて離れる唇を惜しがって、追いかけるように何度も口付ける。
ほうっと熱っぽい吐息を漏らして、遊戯がアテムの胸元に額を押し当てた。

「もう一人のボク……」
「どうした?」

クセの強い遊戯の髪を撫でながら、続く言葉に耳を傾ける。
自分と似て非なる存在。
遊戯だけの独特の呼び方が好きだ。
それを堪らなく愛しいと思うようになったのは、いつの事だったか。
いにしえびとの間では、名前は重要なものだったと聞く。
その名に呪いをかけられたものは、二度とこの世に復活できない。
死後、肉体は滅んでも魂は生き続けると信じられた時代、故国の誰もが呪いを恐れた。
それ故に、王は幾つもの名を持ち、相手によって呼び名を変える。
真実の名は本人とその母親しか知らないと言うのは、古くからの慣習だった。
現代に残る遺跡から王やその一族の名が削りとられているのは、復活を阻止しようとした呪いの痕跡なのかも知れない。
自分の身の上を思い出して、アテムは小さく笑った。
本人ですら憶えていなかった名前を、遊戯と仲間達が見つけてくれたのだ。
3000年の長い年月、自分に仲間はいなかった。
それを何とも思わなかった。
だが今の自分には、何ものにも替えがたいものがある。守りたいものがある。
その差は歴然だ。

「ボクは、今から酔っ払いになる」
「今から?大分前から酔ってると思うぜ」
「むッ、酔ってないったら」

この状況なら、誰が見ても酔っていると言うだろう。
遊戯のこんな姿は滅多に見れるものじゃない。
その事実の方が優先した。

「それじゃ、オレはどうしたらいい?」

倒れこんだ体勢のまま、アテムは遊戯を見上げた。

「何もしなくていいよ。ボクがする」
「相棒が……?」
「今日のボクは酔ってるんだ。だから、どんなボクを見ても……嫌いにならないで」

シャツを握る指が震えていた。
恥ずかしがり屋の遊戯の、精一杯の覚悟なのだろう。
特別な関係になったのも、遊戯が望んでなった訳ではない。
本気で拒否された事は無いにせよ、どこかで無理強いをしたのではないかと言う不安を、アテムは拭い去れないでいた。
目の前の遊戯を見るまで、ずっとその事が胸の中で燻っていた。

「相棒を嫌いになるわけないぜ。……何が起きても、この気持ちは変わらない」
「ホント……に?」
「約束する」
「……信じる」

アテムの言葉に小さく頷くと、遊戯はゆっくりと自分のシャツの釦に指を掛ける。
上から一つずつ外されて行く釦、それに比例して露になる肌。
成人したと言うのにまだ幼さの残る華奢な身体は、アルコールの力でほんのりと色づいていた。
遊戯の事を必要以上に美化するつもりも、女のように扱う気もない。
それでも、素直に美しいと思ってしまうのは内面の清廉さのせいだとアテムは思った。
何度も目にして来たのに、今夜は尚の事魅入ってしまう。
ーーふいに遊戯が動作を止めた。

「そんな風に見られたら……脱げない」
「そう言われても困るぜ」
「これじゃ、羞恥プレイだ」
「羞恥……って、相棒は時々ドキッとさせる事を言うよな」
「もぉ、いいから目瞑っててよ」
「あ、ちょ……相棒ッ」

側にあったクリボーのクッションで目隠しをされてしまった。
まぁ、確かにガン見していた事は事実なわけで。
結果、許可が下りるまで見てはいけないらしい。
例え酔っていたとしても、遊戯から完全に羞恥心を取り去るのは無理のようだ。
無下に否定する事もできず、アテムは見ないふりをする事にした。

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砂糖吐くほどに甘くしたい(笑)
次は18禁です。
苦手な人は回れ右ですよ!