■「-&-」(6)■

いくつもの夜を越えて 時間を越えて
再びめぐり逢えたキセキを
鮮やかに 閉じ込めて

ボクは、<もう一人のボク>をぎゅっと抱きしめる。
伝わってくる体温、華奢だけどボクよりずっと、しっかりした体躯。
全部、ボクが待ち望んでいたもの…。

「…いいのか、相棒?」
「あのね…そう言う事、あえて聞くかなぁ…」
「オレは相棒の意思を尊重しようと思ってるだけだぜ。」
「…この状況に持ち込んだのは誰だっけ?」
「オレ…なのか?」
「ボクじゃないよ?」

互いに見詰め合って笑い出す。
<もう一人のボク>が、ボクの額に軽くキスをして、それが『これから起こる事』を安易に予測させる。
微かに、知らない香りがした。
実体の無かった時には、知る事のできなった<もう一人のボク>の香り。
今更ながら思う。
<もう一人のボク>は、なんて言うか…色っぽい。

「相棒…」
「…?」
「上の空だな。なんか他の事考えてたろ?」
「ち、違うよッ。ボクはただ…その…」

完全に見惚れていたボクは、狼狽してしどろもどろになる。
その時、お腹の虫が大きく鳴いた。

「ぷッ…はははッ!」
「わ、笑う事ないじゃないか~。」
「今朝、食べて行かなかったもんな?色気より食い気とは、相棒らしいぜ。」

ぶち壊しとはこういう事を言うのかと、ボクはちょっと自覚した。
時計を見ると、お昼もとっくに過ぎている。

「こっちには、腹が減っては戦ができぬって言葉があるんだってな。それじゃ、オレ達も後に備えて食事にしようぜ?」
「後に備えてって…」
「ほら、相棒。」

<もう一人のボク>に手を引かれて身を起こす。
ボクは、なんとなく思い付きで<もう一人のボク>の頬を抓った。

「…ッ!?痛いぜ相棒~、何の真似だ?」
「ごめんごめん、夢だったらどうしようって思ってさ。ちょっと実験。」
「オレでやらないでくれ、結構痛かったぜ。」
「嘘だぁ、この位で大げさだなぁ~。」

ボクはここぞとばかりに<もう一人のボク>をからかった。
そんな些細な事が嬉しかった。

「そうだ。これ…」

ポケットから小さな『千年パズル』を取り出して<もう一人のボク>に見せる。
それを見た<もう一人のボク>は、ちょっと照れくさそうにああと頷いた。

「それ、イカしてるだろ?オレが造ったんだぜ。」
「そうなんだ!すごくびっくりした。キミにそんな特技があるなんて知らなかったよ。金(ゴールド)じゃないところがらしいって言うか、何て言うか。」
「相棒の為ならなんだってできるって。ほら、オレの分もあるんだぜ。」

恥ずかしくなるような事を平気で言う<もう一人のボク>は、子供みたいな笑顔でそれを見せてくれた。
これって、もしかして『お揃い』って事だよね。

「バングルとかリングとか色々考えたんだが、一番初めはこれがいいんじゃないかって思ってさ。結構苦労したんだぜ?特にこの三角の形が―――」
「…ありがと…ボクの為に…」

ボクは嬉しくて、本当にすごく嬉しくて、泣いてしまった。

「あ…相棒!?なんで泣くんだ?オレ、また何かしたのか?」
「ううん…嬉し…から…。嬉しくて…だから…」
「そ、そんなもんなのか?…今日は何度も相棒を泣かしてる気がして、複雑な気分だぜ。」
「ごめん…色々困らせちゃって。」

謝るような事じゃないと言いながら<もう一人のボク>が頭を撫でる。
その手の重みに、余計に涙が止まらくなった。

「相棒は怒るかもしれないが…。」
「……?」
「泣いてる顔も可愛いから、好きだぜ?」
「ちょ…ッ…」

そ、そんな超恥ずかしい事を、超恥ずかしいポーズ(ウインク付き)で言わないでよ<もう一人のボク>!!
ボクは泣いてる場合じゃなくなって、全身の血液が沸騰するんじゃないかと思うほど体温が上昇するのを感じた。
キミってヤツは、ホントにッ!

「顔真っ赤だぜ?」
「い、いちいちツッコミ入れないでよ!」
「別に正直に見たまんまを言っただけなんだが…それが気に入らないって言うなら、どう言うのが良かったんだ?」
「ああ、もう!」
「相棒?」

もしかして、分かってて言ってるんじゃないの?
ボクは…悔しいけど、そんなキミが大好きなんだよ。
だけど、その事は当分ナイショにしとこう。

「ボク、先に行ってるね。早く来ないと、自分で作る羽目になるよ?」
「え?それは、相棒が作ってくれるって事なのか?」

ボクは火照る頬を擦りながら聞こえないフリで、そそくさと階下へと向かった。

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イイトコロで先に行けないのは、仕様ですw
そろそろケリを付けたい気分。(何に?)