■恋ニモマケズ■

恋ニモ痛ミニモ負ケズに
雨風に晒されている

今のオレの心境は雨風どころじゃなかった。
例えるなら、超大型台風の暴風域圏内。
正に罰ゲーム。
心の部屋に戻ってからも、ずっと脳裏を離れない呪いの言葉に苦しめられている。

「城之内君…大好きだ……」

この言葉の真意がわからない。
ポジティブに考えれば「友として」と言うことだろう。
なら、ネガティブに考えたら…いや、考えたくも無いが。
酷いぜ相棒、オレは一度だってそんな言葉を聞いたことがないって言うのに。
我ながら「らしくない」とは思う。
とは言え、オレにだって不得手なものはあるんだ。

「くそッ…」

何も無いガランとした部屋をうろつくしかできない自分に嫌気が差す。
相棒を「特別な存在」と認識してから、どれだけの時間が過ぎただろう。
オレが表に出ている時は、大抵が決闘(デュエル)中であり余計な事を考えずに済む。
この大会に参加したのは、オレの失われた過去の記憶を探す為だ。
そんな事はわかってる。
記憶を取り戻したらオレは…オレ達は、どうなる?
もしも、それによって別れなければならなくなったら?
記憶も相棒も手に入れたいと思うことは、我侭だろうか。

「ともかく、城之内君に先を越される前に対策を立てないとだな。」

オレの部屋に唯一ある椅子に腰掛け、今後の事を考える。
相棒は鈍いから、オレがリードしないといつまでもこの関係から前進できない。
ふと、表に出ていた時に目にした週刊誌のゴシップ記事が脳裏に浮かんだ。

「既成事実」

たしか、できちゃった婚とか書いてあった。
心の部屋でしか会えないオレ達が「できちゃう」とは思えないが、試す価値はある。
問題は、どうやって相棒を誘い出すかだ。
いや、その前にシチュエーションは?
ここはやはり、グッとくるようなキメ台詞を用意するべきか…。

「もう一人のボク…起きてる?」

扉の向こうからオレを呼ぶ声。
想定外の相棒の呼びかけに、心底ビビッた。
もちろん、そんな事は微塵も出さずに平静を装って扉まで近づく。

「どうしたんだ?」
「ちょっと、いいかな…?」

相棒の用事って何だ?
まさか例の件で、オレに話か!?
城之内君との今後の事で相談とか、それだけは止めてくれよ。
いや、まて。
落ち着けオレ!!
これは、チャンス到来なんじゃないか?
カードの引きの強さに加え、相棒の引きまで強いとは流石オレ、だ。
自画自賛で頷くと、ゆっくりと扉を開ける。

「起こしちゃったらゴメン。実は…」
「ここじゃなんだから、相棒の部屋へ行こうぜ。」
「え?ボクの…?」
「城之内君とのデュエル以降、あんまり休んでないだろ。オレの部屋はご覧の通り、居心地が良いとは言えそうも無いしな。相棒の部屋なら、話もゆっくりできる気がするぜ?」

我ながら名案だと思った。
これなら疑われずに済みそうだ。

「そっか、そうだね。じゃ、ボクの部屋へ行こう。」

一点の曇りも無い笑顔が眩しい。
…すまない相棒。

「なんだか散らかってるけど、適当に座ってよ。」
「ああ。」

相棒の部屋は、本当に居心地がいい。
温かい優しさが伝わってくる。

「でね、さっきの話なんだけど。」

ついに来たか!
まずはカードを伏せ相手の出方を見るか?それとも速攻魔法で先制攻撃するか?
デュエル以上の緊張感が走る。

「もう一人のボク?…どうしたの、そんな怖い顔して。」
「え!?こ、怖い顔…?」
「もしかして、迷惑だったかな。」
「迷惑?」
「うん、君こそ疲れてて休みたかったんじゃない?」
「いや、別にオレは…。」

言葉に詰まるオレを見て、相棒が小さく溜息をつく。

「君って、肝心な時に何も話してくれないよね。迷惑なら言ってくれたらいいのに。」
「相棒…?オレは迷惑だなんて言ってな…。」
「もう、いいよ!」

ちょっと待ってくれッ。
相棒は、何を勘違いしてるんだ?
意味がわからないぜッ!!
オレは、立ち上がろうとした相棒の腕を思いっきり掴んだ。

「あッ!」

予想以上に強く引っ張ってしまったせいで、相棒の身体はバランスを崩し、勢い良く倒れた。
テンパっていたオレまで、道連れにして…。

「………。」
「………。」

倒れた拍子に、相棒の唇が頬に触れた。
こ、これは「既成事実」って事でいいのか!?

「ご、ゴメンッ!」
「あい…ぼ……。」
「なんかッ、ほんと…ゴメンッ!!」

焦った相棒は平謝り状態だ。
だが、オレにとっては好機到来。
このチャンスを逃すわけには行かない。

「気にしてないぜ。(寧ろ嬉しい誤算だ←心の声)」
「もう一人のボク…。」

オレは、相棒の手をとって瞳を見つめ(←ガン見)た。
そのまま顔を近づける。

「相棒…オレは…。」
「そうだ!思い出した!!」
「え?」
「もう一人のボク、大事な事を言い忘れてたよ。」
「デッキの調整しておいたから、確認しておいて欲しいんだ。」
「あ、ああ?」

このタイミングで、それを言うのか相棒!

「それじゃ、ボク一旦戻るね。君はボクの部屋で休んでていいよ。」
「ちょ…まて…。」
「遠慮しないで。その位、いつだって協力するから!」
「違うって…そうじゃなくてだな…」
「いいから、いいから~。」

激しく勘違いしたままの相棒は、オレを制すると満足げに微笑んで部屋を出て行った。
結局、オレの悪夢はまだ覚めそうにない…。
待ってろ相棒、近いうちにリベンジするぜ!

オレは思う、相棒こそ最強なんだと。

色々間違ってる王様…。
結局、ギャグに走りました。果たして後日リベンジできたのかどうか…。(笑)
ウチの王様はAIBO依存症のヘタレです。AIBOに振り回されればいい。
ちなみにタイトルはTM.Revolutionの大好きな曲から。