■「-&-」(7)■

「……で?」
「な、何かな?<もう一人のボク>?」
「質問なんだが、これはーー」
「ヤ・キ・ソ・バって言う『食べ物』です。たぶん」
「たぶん……?」

色々テンパッてて忘れてたけど。
ごめん、ボクは料理ができません。
作ると宣言した手前、引っ込みがつきませんでした。
とっても反省してます。
なんて、今さら言えるわけもない。

「見た目より味で勝負って言うかー。ほら、こう、男の料理って感じで……」
「すまない、相棒。オレの記憶が正しければ、ヤキソバってヤツはこんなに水っぽくは無かったような?」
「アレンジだよ、アレンジ!今流行の『俺流』的な」
「……」

納得いかないのか、<もう一人のボク>は目の前の『ヤキソバ』らしきものを凝視し、箸にも手をかけない。
そりゃ、お世辞にも美味しそうとは言い難いけど、食べられないほどじゃない……と思うんだけどな。
いいですよ、作ったのはボクだし責任もって先に食べますよ。
味見だって一応したんだし、思ったより水気が飛ばなかっただけで……。

「いただきます」

ボクは箸を持って手を合わせてから、『俺流ヤキソバ』を口に運んだ。

「……ッ!」

味薄ッ! 焼きではなく、この煮られたような微妙な食感。
ヤバい、これはヤバいって!!
流石に、人様に出して許されるレベルを超えてる。
ここは潔く謝って、カップ麺でも食べた方がお互いの幸せに繋がりそう。

「あ、あのッ」
「相棒、フォークをくれないか」
「え?」
「知ってると思うが、オレは箸がイマイチ上手く扱えない。箸にするか悩んだが、やっぱりフォークを使う事にした」
「今まで、それ悩んでたの?」
「あぁ」
「そうなんだ、良かった。見た目があんまりアレなんで固まっちゃったのかと……いやいや、ちょっと待って。箸以前に、ちょーっと問題が」
「問題?」

ボクを真っすぐ見つめてくる視線が痛い。

「めちゃくちゃ、不味いんだ。これ……食べない方がいいと思うんだぜ」
「せっかく作ったのに、もったいないぜ?」
「もったいなくても、ボク的に許されない気がするんだよッ」
「作った本人が、そこまで否定的なのもどうかと思うが……仕方ないな。相棒の意見は尊重するぜ」

そう言うと<もう一人のボク>は、二人分の『俺流ヤキソバ』を持ってキッチンへ向かった。

「手間掛けてごめんね。戸棚にカップ麺あるから、それ食べようよ」
「そうだな」

そんな大きな家でもなく、カップ麺にお湯を入れるにしては、戻りがやけに遅い。
慌ててキッチンへ向かったボクは、手際よく料理をしている<もう一人のボク>を目の当たりにした。

「何してるのさ?」
「やはり捨てるのは忍びない。だから残り物のライスとか、色々使わせてもらった」
「それはいいけど……だ、大丈夫?」
「問題ないぜ」

知らなかった。
<もう一人のボク>は、料理もできたんだ。
本当に、知らない事ばっかりで少し落ち込む。
ボクの作った『俺流ヤキソバ』は、<もう一人のボク>のアレンジで別のものに生まれ変わったらしく、すごく美味しそうな匂いを辺りに漂わせた。

「お待たせしました」

仰々しく、<もう一人のボク>がそれをテーブルに置く。
『俺流ヤキソバ』は見た事も無い、不思議な料理に様変わりしていた。
正直な話、見た目はどっちもどっちっぽいんですけど。

「え〜っと、これは?」
「コシャリ。味付けは、相棒の口に合うように加減してあるから」
「コシャリ?」
「エジプトの大衆料理ってヤツさ。本当は麺と米は一緒に炊き込むんだぜ。オレは、相棒の作ったままので良いと思ったんだが、それじゃ納得しなそうだったしな」
「……聞いてない」
「ん?」
「料理できるって聞いてないっ。だったら、ボクが作る必要なかったじゃない!」

失敗したのはボクだけど、言い出したのもボクだけど……腑に落ちない。
<もう一人のボク>のどや顔も、なんか、すっごく!

「出来る出来ないとかじゃなく、素直に相棒の手料理が食べたいと思っただけだ」
「才能無くてすみませんねッ。次回からキミにお願いするよッ」
「オレは別にかまわないが、結論は食べてから決めてもらおうか」

悔しい。
分かっててやってる。
<もう一人のボク>は、確信犯だ。
味付けが合わなかったら突っ込んでやろうと思ったけど、残念ながらその機会は永遠に来そうに無い。
結局、なんでもソツなくこなしちゃうんだよなぁ。

「美味しい……かも」
「かも……?」
「ッ……美味しい、です」
「それを聞いてホッとしたぜ」
「嘘つき。自信満々だったくせに」
「誤解だ。これも、イシズ達の特訓の成果なんだぜ」
「特訓?」
「あぁ。今までみたいに相棒に任せっぱなしってワケには行かないだろう?」

意外だった。
<もう一人のボク>曰く、日本へ来る為に色々教えて貰ったらしい。
前にイシズさんが<もう一人のボク>は、ボクに会う事をずっと願ってたって言ってた。
想像したらちょっと微笑ましいな、なんて思ったりして。

「箸の持ち方は教わらなかったんだ?イシズさん達もやっぱり苦手だったりするのかな」
「いや、箸は相棒に教えて貰おうと思って取っておいたんだぜ」
「そうなの?」
「あぁ。手取り足取りよろしく頼む」
「……正しく、日本語理解して言ってるんだよね?」

ボクの顔を見て、笑顔を浮かべる<もう一人のボク>の真意が分かった様な気がして、一瞬手を止める。
その手には乗るもんか。
ボクは決意も新たに、コシャリを頬張った。

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超お久しぶりの更新です。
間が空き過ぎて…(汗)