■とっておきのキミ(3)■

BGM代わりに点けっぱなしにしていたFMラジオが22時の時報を告げる。

「もうこんな時間か。相棒、そろそろ止めといた方が身の為だぜ。」

久しぶりに会った友人達の話題とアルコールも加わって、結局のところ2本目のワインに手が出るまでそう長くは掛からなかった。
アテムの心配を他所に遊戯は上機嫌、若干頬に赤みが差しているものの「見た目」に、異変は無い。

(明日休みにしといて良かったぜ。流石にこのペースだとキツい…)

「ほら、それこっちに寄越しな。」
「ボク、まだ大丈夫だって…。残したら美味しくなくなっちゃうよ。」
「その飲み方の方が問題あると思うぜ?」

有無も言わさず、ワインのボトルを没収する。
よく見れば、三分の一残っているだけだ。

「ったく、抱えるようにして飲んでると思ったら…これ相棒が殆ど飲んだだろ。明日、二日酔いで苦しむ事になっても知らないぜ?」
「なんだよー、さっきから小言ばっかり言っちゃってさ。もっとこう、他に言う事無いの?」
「他に?」
「うん。」
「よろしくは初めに言ったしな…え~っと…お疲れ様…とか?」
「ちっがーうッ!」

遊戯は膝立ちするとテーブルをバンッと叩いた。

「大体ね、今日のキミってば、ずっとバクラ君と一緒だったでしょ。…あれ、何話してたの?」
「何って…特にこれと言って無いが。」
「ボクがみんなと話してる時もずっとだよね。…そう、ボクには言えないんだ。」
「言えないって…オレは別にそんなつもりは無いぜ?」
「でも、話す気もないって事だよね?」

(な、なんだこの不穏な空気は…)

遊戯の意味不明な質問にどう答えて良いか分からず、アテムは頭の中で的確な言葉を模索していた。

「相棒…?細々した作業を押し付けた事を怒ってるのか?」
「大学でも顔合わせてて…ボクは…大学の事は知らなくて…。」
「え?…それは、どういう…???」
「もういいよ!<もう一人のボク>なんか大嫌いだッ!!」
「!?」

(おかしいだろ?オレが話してたのはバクラの方で獏良じゃない。なんでそうなる!?って言うか…酔ってるんだな、相棒)

実の所、遊戯は相当に酔っていた。
体質的には強い方だろうが、経験値が足りない。
悪戯で舐める程度はあっても、本格的に飲んだのはこれが初めてだった。
「お酒は20歳になってから」をきちんと守って来た証拠だ。
一方のアテムは言うまでもなく、三千年前の王の時代にとっくに経験済みで、現世に来てからこっそり飲んでるだろう事は安易に想像がつく。

「ちょっと酔いが回ってるみたいだぜ?少し横になった方がいい。」

酔っぱらいの戯言でも、「大嫌い」発言は胸にグサっと突き刺さったが、このまま放置する訳にもいかない。
アテムは立ち上がると遊戯の腕を掴んだ。

「ほら、相棒。立てるか?」
「触るなっ!」
「うわッ…!?」

ゴチン。
思いっきり突き飛ばされて、不覚にも頭を打ち付けてしまった。
倒れたのが厚手のラグマットの上だったので、幸い大した事は無かったが、思わず深いため息を漏らしてしまう。
それを見た遊戯が、おずおずと顔を覗き込む。

「<もう一人のボク>…ごめん。」
「酷いぜ相棒…。打ち所が悪かったら死んでたかも。」
「そんなッ!ボク、そういうつもりじゃ…」
「ふッ、冗談だぜ。相棒に突き飛ばされるのには慣れてる。」
「慣れてるって?…でも、ホントごめん…。なんだかちょっと悔しくなっちゃって。どうかしてる…」
「酔っぱらいだから仕方ないさ。」
「…酔ってない。」

遊戯はそう言い返すと、アテムの胸に顔を埋めた。
大抵の人間は酔うと箍(たが)が外れる。
遊戯も普段は理性的で感情をセーブしている所があるんだろう。
揉め事は遠慮したいが、こんな風に甘えられるのは悪くないとアテムは思った。

「<もう一人のボク>…あの…さ…」
「ん?どうした?」
「ボク…」

その時だった。
タイミングを計ったかのように鳴りだしたアテムの携帯。

「出なくていいの?」
「どうせ大した用事じゃないさ。」

何度かコールした後、携帯は留守電に切り替わったらしく静かになった。
が。
今度は遊戯の携帯が鳴りだした。

「今度は相棒のが鳴ってるぜ。」
「獏良君からだ。」
「は!?」
「ボク、着メロで鳴り分けさせてるから。」

遊戯はヨロヨロしながら起き上がると、律儀にも携帯に出る。

「もしもし?獏良君?」

(オレの携帯の後に相棒の携帯って…獏良のヤツ、また何か企んでるんじゃないだろうな…)

日本式挨拶の一件を根に持ったアテムは、遊戯の電話に耳を傾けた。
流石に、会話の内容までは聞き取れない。
やれやれとひとりごちて、アテムは二度目のため息を吐いた。

→NEXT

誤解しないで下さいネ。
ぴかいち、獏良君大好きDA!!