■「-&-」(5)■

カタチの無いモノを欲しがるボクらは
言葉だけじゃ足りなくて
熱も痛みも深く刻んで…

多少のぎこちなさを残しつつ帰宅したボク達は、ひとまず部屋で落ち着くことにした。

「もう一人のボク…」
「相棒…」

同時だった。
こんな時にシンクロしなくても良さそうなのに、なんてタイミングが悪いんだろう。

「な、何かな?」
「いや、相棒から…」
「えぇ!?ボク…?」
「話があるって言ったのは相棒だぜ?」
「それはそうだけど、なんか素直に頷けない。だってさ、最初に話がしたいって言ったのキミだったよね?」
「オレ?…そうだったかなぁ…、ま、後は相棒、頼むぜ。」
「そうやって、都合が悪くなるとすぐボクに押し付けてッ。」

あれ?
この感じ、どこかで似たような事があった気が…。
こう言うのを既視感って言うんだっけ。

「ね、記憶ってどこまで憶えてるの?」
「どこまで…って聞かれると難しいな。自分に起きたことは周りから聞いて知ってるし、その影響かは不明だが、この数ヶ月は夢に見るようになったぜ?」
「夢?」
「あぁ。だから単なる夢なのかオレに起きた事実なのか、その辺が曖昧だな。」
「…ボクの夢は見た?」
「え!?」

<もう一人のボク>の顔色が変わった。
何か聞いちゃいけない事だったかな。
でも、そんなあからさまにされちゃ、聞けって言ってるようなもんじゃない?

「どうなの?」
「無いわけでもない。」
「何それ、はっきりしないなぁ。要するにあるって事でしょ?」
「まぁ…な」
「どんな?」
「わ…忘れた。」

明らかに、怪しい。
それ以上突っ込んでくれるなと言うように、視線をそらす<もう一人のボク>。

「別にいいけど…。どうせ、ボクの事なんかこれっぽっちも憶えてないって事だよね。」
「ちが…ッ…」
「もういいよッ。」

冗談が過ぎるかなとは思ったけど、ボクは大げさに溜息をついて立ち上がった。
ほんの悪戯心だった。

「相棒ッ!」
「あ、危な…ッ…」

いきなり腕を引かれて、バランスを崩す。
ボクは<もう一人のボク>を押し倒す格好で静止した。
心臓の音まで聞こえそうな距離で、お互い身動きできないままの沈黙は辛い。

「え~っと…」
「…前にもあった。」
「え?」
「前にもこんな事あった気がするぜ。」

ボクは驚いて<もう一人のボク>を見つめた。

「相棒が…ここ(頬)にキス…したよな?」

確かに、以前、似たような事があった。
まだ、ボク達はお互いの気持ちを伝えていなくて、不安でいっぱいだった時の事だ。

「キス…したんじゃないよ。あれは、事故だもん。」
「オレにとってはチャンスだったぜ?」

逸らすことなく見つめてくる瞳に、ボクが映っている。

「チャンス?」
「相棒…」

ボクの頬へ伸ばされた指が、微かに震えた。
今度は、ボクがその指を掌で包む。
言葉にできない感情が胸を締め付ける。
そのまま<もう一人のボク>の唇にキスを落とした。

「こう言うのがキスって言うんだよ?」
「…知ってる。」

次の瞬間、あっさりと抱き込まれ体勢が逆転してしまったボクは抗議の声を上げた。

「もう、油断もスキもないッ!」
「そう言うとこ、変わらない?」
「さあ…?知らないよ。」
「オレは、この世に戻るために記憶を無くした。だけど、相棒の事は全部思い出してみせるぜ。」
「もし…思い出せなかったら?」
「それでも、ずっと傍にいたい。」

ボクは、ずっとキミを待ってた。
自分に嘘をついて、キミを送り出したことを後悔してた。
これは、ボク達への罰ではなく、2人で生きていく為に必要な事だったって…思ってていいかな?

「ボクも…。ボクもずっと一緒にいたい。」
「相棒…」
「記憶なんて戻らなくても、作って行けばいいよね?」
「ああ。そんなモノが無くたって、オレはずっとお前のことを好きだってわかってたぜ。」

今まで胸の中を覆っていた霧が晴れた気がした。
きっと、これからも色々あるかも知れないけど、2人なら大丈夫って思えるよ。
ボク達は、一人じゃない。

「…遊戯…好きだ。」

<もう一人のボク>に名前を呼ばれると弱い。
ボクの心臓は、早鐘のように脈打ってドキドキが止まらなくなる。

「それ、反則…」
「遊戯は、遊戯だろ?」
「…じゃ、アテムって呼―――」

ふいに口を塞がれて、その先は声にならなかった。
<もう一人のボク>の鼓動が重なる。
ボクはそっと、その背中に腕を回した。

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だんだんとバカップル化してたりして!
思いが通じ合ったW遊戯は無敵ですw
「恋ニモマケズ」の方をご覧になっていない方は、一度読んで頂けたら嬉しいです。
しつこく、続きます。