■とっておきのキミ(4)■

「うん、それじゃ…おやすみ。もう一人のバクラ君にもよろしくね。」

獏良からの電話は思ったより短かった。
携帯を置くと遊戯がアテムに向き直る。

「内容知りたい?」
「え?なんで?」
「だって、そういう顔で見てたから。」
「オレは別に…」

言いよどんだアテムを見て、遊戯はあからさまに眉間にしわを寄せた。
ずいっと顔を近づける。

「ホントに知りたくないの?」
「それってどう言う…」

言い終わらないうちに、突然重力を失って背中からラグに倒れ込む。
本日二度目の転倒と言う事になるだろう。
いったい…何事が起きたのか。
アテムが状況を把握するのに、そう時間は掛からなかった。

「あい…ぼ…?」
「キミはちっともわかってない!」

アテムに馬乗りになって見下ろす遊戯の表情は、明らかに酔っ払いのそれだった。

「なんで獏良君からキミへ電話が来るのさ?」
「いや、電話は相棒の携…」
「キミが出ないから、ボクに掛けたんだってッ。」
「そんな事言われてもオレには検討も付かないぜ?」

(なんだって獏良のヤツは、揉め事の種を撒くんだ?しかもタイミングが絶妙だぜ…)

不可解な遊戯の行動は、確かに酔いのせいもあるのだが、根底にはちゃんと理由がある。
が、アテムは、変なところで鈍感だった。

「相棒が何に腹を立ててるか知らないが、言いたい事があるなら言ってくれないか?」
「ホントにわかんない?」
「…あぁ。」

(デュエルだったら勘が働くくせに…)

されるまま下敷きになっているアテムを見て、遊戯も溜息を一つ漏らす。
頭の奥がふわふわとして、不思議な感じだった。
いつもなら飲み込んでしまう言葉も、口をついて出てしまいそうだ。

「キミはこうしてボクの目の前に存在(い)る。なのに…心の部屋で話してた時より…その…遠いって言うか…」

自分で言い出しておきながら、遊戯は耳まで真っ赤だった。

「ボクが知らない…キミの時間があるって…なんか…」
「相棒…」
「も、もういいや。忘れて…ボクの独り言。」
「それって…。もしかして…ヤキモチってやつ…なのか?」
「ち…違……ッ…」

自分を見つめる真っ直ぐな視線に耐えられなくなって、遊戯はふいっと顔を背けた。

「相棒?」
「…そう、ヤキモチッ。ごめんね、ボクは案外嫉妬深いんだよ。」

キッと挑むような視線を返す。
それを聞いたアテムの方が今度は赤くなる。

「もう一人のボク?」
「…すごく…」
「すごく?」
「照れるぜ…」

(あ。…また、この表情)

遊戯は今更ながら気付いた。
自分だけに与えられた特権が、どれほど大きな意味を持っているのかを。

「もう一人のボク…大好きだよ。」

いつもは求められることが殆どだが、今日の遊戯は違っていた。
頭を低くすると、そのまま唇を重ねる。
体勢を立て直す隙を与えるつもりはない。
キスの仕方も、それ以外も、アテムから教えられたもの。
それでも、自分に出来得る限り気持ちを籠めて還したい。

キミが思うよりずっと…
キミが好きです、と。

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これ3年後設定なんですけど…。
中学生かよって感じの展開です、ね(苦笑)
次回は…まぁ、やっと…かも知れません。