■「-&-」(4)■

迷い、傷つける弱さも曝け出して
隣で笑うキミの
ずっと傍にいたい

翌朝―――。
結局、たいして眠れないまま朝を迎えたボクは、眠い目を擦りながらダイニングへと向かう。
生欠伸をしながら食卓に着くと、既に<もう一人のボク>が朝食をとっていた。

「おはよう。なんだか眠そうだな?」
「おはよう…うん、ちょっと夜更かししちゃって。」

そう言いながら、ボクは<もう一人のボク>へ視線を向けた。
不思議な気分だ。
考えてみたら、ボクは<もう一人のボク>が食事をしているのを見た事が無い。
しかも並んで食事をするなんて、夢にも思って見なかった。
こっそり様子を観察しようか。

今朝のメニューは、思いっきり和食だった。
あ…おかずを取り損ねた。
再チャレンジ。
…また、失敗。
しばらく硬直。
…ちょ…テーブルに落ちた。
箸の使い方がまったくダメ、なってない。
<もう一人のボク>はこの数ヶ月どうやって過ごして来たんだろう。
少なくとも箸の持ち方は練習してないみたいだ。

「ね、箸じゃなくてフォークにしたらどうかな?」
「いや、このままでいい。」
「だって、それじゃいつまでたっても食べられないよ?」
「……そ、そのうち慣れるぜ。」

ボクは思わず吹き出し笑いになる。
キミにも苦手なものがある事を知ったよ。
言い出したら聞かないとこは変わってないね。

「しょうがないなぁ。教えてあげるから、ボクの真似して?」

ボクが箸を持ってみせると<もう一人のボク>も同じように持つ。

「こうか?」
「んー、もうちょっと上の方を持って…そうそう、そんな感じ。」
「…やっと笑ったな?」
「え?」
「相棒が笑った顔、ここに来て初めて見たぜ。」
「あ…」
「いいんだ。わかってる…相棒のせいじゃない。」

ボクは<もう一人のボク>を傷つけてる。
自分が一番の被害者みたいな顔して、全部を押し付けて…最低だ。

「ごめん…、本当にごめんッ!」
「相棒…?」
「ボク、今朝は日直当番だからもう行くね!」

まただ。
また、ボクは逃げ出した。
いつからこんなに臆病になったんだろう。
何に怯えているかも自分でわからなくなってる。
自己嫌悪に陥って、足取りも重く家を出る。
ボクの望みは……。

「おッはようさーん!」

背後からの元気のいい声に、はっと我に返る。

「城之内君、おはよ…」
「どうした?なんか元気ねーなー?」
「そっかな?」
「ああ、いつもの遊戯らしくねーぞ。なんかあったのか?」

<もう一人のボク>が戻った事、話そうか。
きっとみんなは、今のままを受け入れてくれる。
だけど、その前に…ボク自身が気持ちに決着を付けなくちゃ。
なんとなく、そうしなくちゃいけないって気がするんだ。
<もう一人のボク>は、まだ編入手続きもできていないし、それまでは黙っていよう。
ボクは、いつも通りに振舞うことにした。

「ちょっと寝不足で…そのせいかな?」
「わかった。お前、またビデオ見てたんだろ?やらしーッ!」
「ち、違うよ!なんですぐそう言う発想になるわけ!?」
「違わないねーッ、本田にもバラしてやる!」
「ちょっと、城之内君ってば!!」

おどける城之内君を追いかけながら、ボクは思う。
今日帰ったら、話そう。
過去に決別して、新しい道を選ぼう。
ボク達の事は白紙に戻して…。

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「ぐるるる…」

朝食を抜いたツケが早々とやって来た。
まだ2限目が終ったところなのに、お腹が空いて授業に集中できそうもない。
購買に行ってパンでも買ってこよう。
ボクはサイフを取る為にカバンを開けた。
あれ?
カバンの中から、見慣れない小さな包みが顔を出している。
中に何か入ってるみたいだ。

「…?」

不思議に思いながら、中身を取り出す。

「これ…」

驚いて、息を飲んだ。
掌に、小さなシルバーの『千年パズル』が転がり出たからだ。
ボクは立ち上がると、教室を飛び出した。
何事かと言う顔でボクを見るクラスメートに目もくれず、ある一念だけに突き動かされてた。
早く<もう一人のボク>に会わなくちゃ!
校門を抜け、息を切らせて全速力で走る。
学校から家まで、こんなに遠く感じたことは無かった。
走っている間、脳裏に浮かんだのは今朝の光景。
ちょっぴり寂しそうな<もう一人のボク>の笑顔。
ボクは馬鹿だ。
一番大事な事を忘れていた。

「なんじゃ、学校はどうしたんじゃ?」
「それどころじゃないよ!」

駆け込んできたボクを見て、じいちゃんが不思議そうに見ていたけど、そんな事に構っていられない。
ボクは<もう一人のボク>の部屋へ飛び込んだ。

「もう一人のボクッ!」

返事は無い。
部屋はもぬけの殻だった。
再び店に戻るとじいちゃんに詰め寄る。

「じいちゃん、もう一人の…じゃなくて、アテムは!?」
「アテム…?部屋におらんか?」
「居ないから聞いてるんじゃないかッ!」
「さぁ、何も言っとらんかったしな…散歩にでも行ったんじゃろ?」
「散歩…」

まさか、また居なくなってしまったんじゃないよね?
キミを傷つけた事を謝りたい。
ともかく<もう一人のボク>を探さなくちゃ!

気持ちだけが先走り、ボクは当ても無く街へ向かった。
平日の、しかもまだ午前中だって言うのに、こんな時に限ってやたらに人が多い。
そもそも、街へ向かったんだろうか。
ボクに愛想をつかして、エジプトに帰ってしまった可能性だってあるじゃないか。
部屋に荷物はあったっけ?
ああもう、何やってるんだボクは!!
<もう一人のボク>が行きそうな所ってどこ?
情けなさで泣きたくなった。

「…相…棒?どうしたんだ、こんなとこで。」

声のした方へ振り返る。
きょとんとした顔でボクを見る<もう一人のボク>が立っていた。

「も……ッ…」
「も?」
「もう一人のボクッ!!」

色んな気持ちがないまぜになって、セーブできなかった。
なんて思われても構わない。
ボクは<もう一人のボク>に抱きついた。

「相棒?…何かあったのかッ!?」

気が抜けたのか、言いたかった言葉がなかなか出て来ない。
代わりに涙が溢れて止まらなかった。

「誰かに酷い事でもされたのか?」
「酷…のは…ボク…キミに謝りたくて…だから…」
「相棒は酷くないだろ?…本当に、どうしたんだ?オレの事を言ってるんだったら、気にする事ないぜ?」
「駄目だよ、気にしてよ!…キミに酷いことしたんだから…」
「気にしろと言われても…。と、ともかく…泣かれると困る…。」

<もう一人のボク>の指先がボクの涙を拭うように触れた。

「やっと笑ったと思ったら泣き出して、相棒は忙しいぜ。」
「…ごめん」

それからボクが泣き止むまで、近くの公園のベンチで時間を潰した。
落ち着いたら急に気恥ずかしくなって、なんだかマトモに顔を見れなくなってしまった。

「ところで、学校は?」
「あ!…忘れてた…」
「戻った方がいいんじゃないか?」
「…もういいよ。それより、帰ろう?キミに話したいことがあるんだ。」

今度こそ、ボクは逃げない。

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やっとまともにW遊戯登場って感じ?
こっから先を書きたいが為、ここまで引っ張って来ましたよw
そして続きます。