■「-&-」(3)■

何度生まれ変わっても
必ずキミを見つけに行くよ…

「とりあえず座ってて。キミの部屋の準備をしてくるよ。空いてる部屋があるから、たぶん、そこがキミの部屋になると思うんだ。ついでに何か飲み物でも持ってくるね。」

ボクは<もう一人のボク>を残して、部屋を出ようとした。

「待ってくれ、相棒。」

呼び止められて振り返る。

「もう一人のボク…じゃなかった…アテム…どうかした?」
「アテムなんて呼ばなくていい。今まで通りで構わないぜ?…そんな事より、ちゃんと話がしたい。」
「ちゃんと…?」
「さっきから様子が変だからさ。…オレが来ちゃ迷惑だったか?」
「迷惑だなんて、思ってないよ。」
「嘘だな…その顔は思ってる顔だ。」
「思ってないよ。」
「思ってるね。オレには解る。」
「何でそんな事言い切れるわけ?キミに何が解るって言うのさ!」

つい語尾がキツクなる。
確かにボクにも問題があった。
ごめん…誤解させるような事をしてるのは、ボクだ。

「なら、ちゃんと言ってくれ。それともオレ達は前からこんな感じだったのか?」
「…前から…?」

そうだね。
<もう一人のボク>には、ちょっとした日々の記憶も無い。
ボク達が何を話し、どんな気持ちで一緒に居たかなんて知らないわけだ。
一つの身体を共有していた頃は、心の部屋でしか触れられない事が歯がゆくて辛かった。
こうして別々の身体になって、心まで遠くなった気がしてるボクは我侭なのかな。
それとも、記憶を引き換えに転生した<もう一人のボク>に、ボクはもう必要無い…のかな。
現実を突きつけられて、我に返る。

「キミにとってのボクは『器』だったから…。」

本当の事を知ったら、記憶が無い自分を<もう一人のボク>は責めてしまうだろう。
どうせ嘘を付いて気持ちを誤魔化したんだ。最後までそうしよう。
…これ以上、お互いが傷付かないで済むように。

「だからね、キミの考え過ぎ。こうやって転生した事だし、キミはキミの思うようにしたらいいと思うよ。神様がくれたチャンスと思ってさ!」
「相…棒…」
「って事で、よろしくアテム。」
「本当に?…本当にそうなのか?」
「やだなー、嘘付く理由が無いよ?…兄弟ができたみたいで嬉し…ッ…」

声が震える。
このままじゃ、勘のいい<もう一人のボク>に、バレてしまう。
ボクには、その場を誤魔化して部屋を去るくらいしか方法が見つからない。

「や…っぱり、咽喉が渇いたから、何か持ってくるッ!」

<もう一人のボク>が何か言った気がした。
だけど、それに耳を貸す余裕は無い。
逃げるように部屋を出ると、階下へ向かう。

「遊戯。」

声を掛けてきたのは、イシズさんだ。

「イシズさん…」
「アテムとは話できましたか?」

イシズさんの質問に、ボクは小さく首を振った。

「そうですか。…もう少し、時間をあげてはくれませんか?この数ヶ月、あなたと再び会えることをずっと願って来たのです。今は記憶を失っていますが、彼はあなたの知っている<もう一人の遊戯>に間違いないですよ。私が保証します。」
「わかってます…。もしかしたら、記憶なんか無い方がいいって神様が判断したんじゃないかなって気がして…」
「何故です?」
「上手くいえないけど…<もう一人のボク>がアテムとして生きるのに、必要ないから…かな…」
「…私はそうは思いません。あなた方には、運命付けられた『縁(えにし)』を感じます。今、こうしてこの場に居ることも意味のあるものなのです。」
「意味のある…?」
「はい。それを生かすのはあなた方次第ですよ。さ、私は長居をし過ぎました。そろそろ失礼いたしますね。」

ウチに泊まって行くよう勧めると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。

「ホテルで家族が待っていますので。」
「家族?」
「マリクとリシドです。」
「来てたんだ?顔出してくれたら良かったのに!」
「再会の邪魔をしたくないんだと言っていました。今度、みんなで伺います。」
「うん、待ってるよ。」

迎えのタクシーが来ても、じいちゃんは名残惜しそうにいつまでもイシズさんと話をしている。
<もう一人のボク>も、何か話していたみたいだったけど、用が済むと先に部屋に戻ってしまった。
ボクはまだ、<もう一人のボク>と向き合う事もできないでいる。
―――長い一日が終ろうとしていた。

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うッ、なんか暗くなって来ました?
すみません…いや、もっと明るくなるハズ…だった気が…。
まだまだ引っ張りますw