■キミがスキ■

キミがスキ
この世界でキミ以外は要らない
それがボクの全部
それがボクの真実

ボク達の「バトルシティ」は、<もう一人のボク>が3枚の神のカードを手にして幕を閉じた。
ここから<もう一人のボク>の本格的な記憶探しが始まる。
覚悟はしていた。
…したつもりだった。
三千年前のエジプトでファラオとして存在していた<もう一人のボク>に何があったのか。そして、イシュタール家の悲劇を思うとボクに逃げ道は無い。

だけど…離れたくない。
何かと引き換えにできるなら、何だって構わない。

『ボクの記憶を全部あげるから…』

馬鹿みたいだ。
記憶なんて、あげたり貰ったりできるわけないのに。
ちっぽけで弱虫なボクにできる事なんて、たかが知れてるじゃないか。

「はぁ…」

駄目だ。
考えれば考えるほど「落ち込みモード」になる。
幸い、今はボクの心の部屋だから<もう一人のボク>に悟られる事は無い。
こんな気持ち、絶対知られちゃいけない。
ゲームが散らばった部屋の隅っこで、自己嫌悪に陥っていた。

「相棒、居るのか?」

ふいに呼ばれて、飛び起きる。
今にも口から心臓が飛び出そうだ。

「も…一人のボク?」

静まれ心臓、上ずるな声。
深呼吸をしてから、ゆっくりと扉を開ける。

「話しておきたい事があるんだ。…今、いいか?」
「う…ん、いいよ。」

ボクは、扉を開け放したままにして<もう一人のボク>を招き入れた。
やっぱり、エジプト行きの話をしに来たんだろうな。
正直、気まずい。
たぶん<もう一人のボク>は、気を使っているんだろう。
ここは嘘でも明るくしなくちゃ、それがボクの「出来る事」だ。

「じ…、城之内君強くなったよね!」

バトルシティが終った直後、<もう一人のボク>は城之内君との約束だったデュエルをした。
キングダムの時よりずっと、強くなってた。
城之内君だけじゃない。
みんな<もう一人のボク>とデュエルがしたいに決まってる。
そう、ボクだって…。
気を抜くとすぐにネガティブ思考に向かう気持ちを、必死で取り繕う。

「海馬君なんか、きっとキミに勝つまで、デュエルしろって言い続けるだろうね。海馬コーポレーションの財力をフルに使って何処まででも追ってくるかも知れないよー。」
「相棒。」
「ボクの事は気にしないでいいから。キミのデュエルは見てるだけで勉強になるし…」
「…そうじゃないんだ。」
「あ、そっか。エジプト行きの話?それだったら、ボクは大丈夫、準備万端だよ。全然、大丈夫だか…ら…」

何言ってるんだろう。
全然大丈夫なんかじゃ無いくせに…。
笑わせるよ。

「オレが大丈夫じゃない。」
「…え?」
「オレが…大丈夫じゃない…んだ。」

<もう一人のボク>の腕がボクへ伸ばされる。
ボクは、そのまま身体ごと受け止める。
何が起こったのか、直ぐには理解できなかった。

「どうしたの!?どこか痛いの?」
「相棒…好きだ…」

咄嗟の事に気が動転していたボクは<もう一人のボク>の声が耳に入らなかった。
そもそも、実体の無い<もう一人のボク>が病気になるなんて事、あるわけない。
そんな事も忘れて、本気で心配した。

「ちょっ…どうしようッ…、しっかりして、もう一人のボク!!」
「…相…棒…。」
「とりあえず、一旦キミが表に出て!それで、病院に…って言うか、どこが痛いの?場合によっては救急車―――」

突然、息ができなくなった。
反射的にぎゅっと目を瞑る。
ボクの言葉は<もう一人のボク>に遮られて、それ以上は声にならない。
重なった唇から漏れる微かな息遣いだけが、やけに耳に響いた。
全身の神経が張り詰める。
ともすれば力が抜けてしまいそうになるのを必死で耐えて、<もう一人のボク>から逃れるように離れた。
呼吸を整えながら、言葉も無く<もう一人のボク>を見つめる。

「悪い事をしたとは思ってないから、謝らないぜ。」

そう言った<もう一人のボク>の瞳は真剣だった。

「相棒からの言葉は、期待できそうにないからな…」
「それ…どう言う…」
「もう、いいんだ。」
「いいって、何がいいのさ!?」

<もう一人のボク>は、それ以上答える気は無いと言うように無言で立ち上がると、自分の部屋へ向かおうとした。
ボクは置いてけぼりにされるみたいで、無性に腹が立った。

「もう一人のボク!そうやって、自己解決して逃げるんだ?」
「…逃げる?」

聞き捨てならないと言う顔をして振り返る<もう一人のボク>に、さらに追い討ちをかける。
訳のわからない感情がボクを支配していた。

「逃げてるじゃないか!勝手にキスして勝手に納得して…本当にキミは身勝手だよ!!」
「ああ、そうだな。オレは身勝手さ。でも、こうでもしなきゃ相棒に伝わらないと思ったからだ。」
「ボクに…?」
「オレ達はいずれ離れ離れになるかも知れない。いや、なるだろう…。本当は、言わないでおこうと思ったさ、相棒の『告白』さえなければ、な。」
「こ、告白ー!?誰に?…ボクが???」

予想もしていなかった事態に、頭が真っ白になる。
ボクは誰にも『告白』なんてしてない。
寝言で何か言ったとか…そんな、あり得ない!!

「いつ…?」

ボクの問いに<もう一人のボク>はバツが悪そうに答えた。

「バトルシティで、洗脳が解けた城之内君に…」
「え…?ええーーーーーーッ!?」
「もう、いいだろう。相棒の気持ちは察したぜ。」

思い出した。
確かに言った。
でも、あれは『親友として』言った言葉だった。

「ち、違う!…違わなくないけど、でも違うんだってば!!」
「落ち着け相棒、言ってることがメチャクチャだ。」
「とにかく!城之内君は友達だよ?そんなワケないじゃないかッ。」
「そうなのか!?」
「そうなのかって…キミって本当に…解ってない…」
「あ、相棒に言われたくないぜッ。」

…何だろう。
<もう一人のボク>の見たことも無いような困った顔。
こんな顔が見れるのは、ボクだけだね。
そんな事を考えてたら、さっきまでのやり場の無い怒りはどこかに消えてしまった。
確かに不安は残ってる。
問題は山積みで、ちゃんと色々話さないといけない。
それでも、今は…今はまだ、これでいいかな。
さっきまで落ち込んでた自分が、嘘みたいだ。

「ボクが好きなのは、キミだから。今度は信じていいよ<もう一人のボク>?」

ボクはそう告げると、返事を待たずに心の部屋を後にした。

結局、両想いなんじゃん!って言うオチ。
王様のリベンジは一応成功した…みたいです?
やっぱりAIBOは最強だよね!
って言うか、ウチの場合は単なるバカップルですか?そうですか(笑)